昨今の緊急事態宣言やまん延防止等重点措置に伴い、テイクアウト・デリバリー販売を行う飲食店が見かけられるようになりました。居酒屋が軒先でお弁当やオードブルを販売したり、宅配サービスが普及したりと、今後も需要は増えていくと思われます。
テイクアウト・デリバリーにおいて気を付けなければならないのが、食中毒です。イートインに比べ食べるまでに時間があるため、衛生管理は店内提供以上に徹底しなければなりません。ひとたび食中毒被害が報告されると、営業停止処分が科されるだけでなく、お客様への賠償責任等も生じます。
今回は、食中毒が起きてしまった場合の対応や、予防策についてご紹介します。
■食中毒が起きてしまったら
お客様から、自社の食品が原因とされる食中毒の報告があったと仮定しましょう。その際はまず保健所に連絡をとり、判断を仰ぎます。お客様がまだ病院に行っていないようであれば、医師の診断を受けるようすすめてください。自分たちに非があるかとは別に、お客様に安心していただけるよう誠意ある行動を意識することが肝心です。
早期解決のためにも、保健所の立ち入り調査には積極的に協力しましょう。マニュアルや仕入れ先リストの提示を求められる場合がありますので、事前に準備しておくとスムーズです。
<聞き取り内容の一例>
・お客様の利用日時
・原因とされる食品の、調理や配達の工程
・他のお客様から同様の連絡が来ていないか
・体調不良の従業員がいないか
<保健所への主な提出物>
・原因とされる食品
・店舗の調理マニュアルや衛生管理マニュアル
・従業員の検便結果
・仕入れ先リスト、直近の仕入れ履歴
提出した内容等をもとに、保健所が調査して原因を特定します。店側は数日間の営業停止処分が言い渡され、場合によっては無期限の営業停止という非常に重い処分が下ることもあります。営業が再開できたとしても、一度遠のいた客足を取り戻すのは容易ではありません。
さらに被害に遭った方の医療費を負担しなければならないほか、入院や休養で出勤できなかった分の給与の補償、慰謝料の支払い等もあり、金銭面でも大きな負担となります。
■食中毒の予防に重要なこと
食中毒予防の3原則は、「付けない・増やさない・やっつける」です。厚生労働省では「テイクアウト・デリバリーにおける食中毒予防※1」として、以下のような注意点を挙げています。
・テイクアウトやデリバリーに適したメニュー、容器ですか?
・お店の規模や調理能力に見合った提供数になっていますか?
・加熱が必要な食品は、中心部まで十分に加熱していますか?
・保冷剤、クーラーボックス、冷蔵庫、温蔵庫等を活用していますか?
・速やかに食べるよう、お客様にお知らせしていますか?
店側だけが注意すればよいというわけではなく、お客様にも十分な周知を図る必要があります。いくら店内の衛生環境が整っていても、実際にお客様が食べるまでに時間があいたり保存方法が不適切だったりすると、ウイルスが繁殖するリスクが高くなります。テイクアウト・デリバリーを始めたばかりなら、はじめは管理が行き届くよう対象商品を少なくするといった対策も有効です。また、夏場は食品が傷みやすくなるので生もののメニューは取り扱いを控える等、ルールを適宜見直しましょう。
たった1件の食中毒事故が、事業者・お客様双方の人生を狂わせるおそれがあることを認識し、しっかりと対策を設けましょう。
■食中毒事故の実例と、共済の有用性
過去5年間(2016~2020年)における国内の食中毒事故の発生件数は、2018年が1,330件ともっとも多く、2020年は最少の887件となっています。昨年の件数が少なかったのは、緊急事態宣言により外食する機会そのものが減ったことや、こまめなアルコール消毒等、一人ひとりの衛生管理への意識が高まったことが主な理由でしょう。同期間の発生原因は1位がアニサキスで1,536件、2位がカンピロバクター・ジェジュニ/コリで1,446件、3位がノロウイルスで1,135件です。※2
2020年は件数こそ過去5年で最少ですが、被害者が少なかったわけではありません。2020年6月、埼玉県八潮市の小中学校の給食で病原大腸菌による集団食中毒が発生しました。生徒・児童ら3,453人が腹痛や下痢等の症状を訴えた事故※3で、給食を用意したセンターがメニューのひとつである海藻サラダを、温度管理が不十分な状況下で前日料理したことが原因とされています。生食のため、病原物質が付着したサラダがそのまま提供されてしまったのです。センターから各学校へ配送する給食も一種のデリバリーであり、衛生管理には万全を期すべきでした。
このようなPL事故(自社の商品やサービスが原因の事故)への備えとして、共済の利用をお考えください。全日本火災共済協同組合連合会の「中小企業者総合賠償責任共済」は、万が一食中毒事故が起きてしまった際、被害者への賠償責任を負担することによって被る損害に対して補償を行います。また、食中毒に限らず施設等の所有・管理に関する賠償責任補償も対象となります。
衛生面と金銭面、それぞれで対策を施し、食中毒ゼロの事業運営を継続しましょう。
■まとめ
今回ご紹介したように、衛生管理とは食べ物の消費期限や鮮度ばかりに目を向ければよいという単純なものではありません。調理器具、容器、お客様へのアナウンス、一つひとつの要素をクリアすることで、安心のテイクアウト・デリバリーサービスを実現できるのです。食中毒は起こさないのが一番ですが、「もしも起きてしまったら」を想定した体制の構築は、事業者の大切な務めです。
飲食店の運営においては食中毒以外にも、火災や怪我等、様々なリスクが潜んでいます。各種損害への対策として、共済の利用をぜひご検討ください。